東京地方裁判所 昭和46年(ワ)3180号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕既に認定の原告の症状固定時の得べかりし収入、後遺症にもとづく労働能力喪失の割合およびその継続期間に従うと原告は、昭和四五年一二月一五日より二年の間、通常人に比し一四%稼働能力を低下させて稼働するほかなく、これに従い収入の一四%分金一万三六六三円を一ケ月当り逸失することになる。この昭和四五年一二月一五日における現在価値を求めると次のとおり金三〇万四八五九円となる。
九七、五九三×一二×〇、一四×一、八五九四=三〇四八五九
被告らは、原告には後遺症による収入減はなかつたはずだから、逸失利益は認められないと主張する。そして<証拠によれば>原告は治療打切後は、訴外会社でハイヤー運転手として稼働し、昭和四五年一二月からの一ケ月を見ても、有給休暇を八日とつた他は、時間外等の勤務していたこと、同人は、昭和四六年二月六日から個人タクシー運転手として稼働するようになつたが、平均一日当り、一六〇粁前後を走行し、金六〇〇〇円前後の収入を得たこと、諸経費を控除すると原告の手取り収入は月当り金八万円前後であること、その間原告が病気のため休業したり、早退したりしたのはわずかしかないことが認められ、これに反する証拠はない。右認定事実と前記認定の後遺症固定時の得べかりし収入とを比較すると、少なくとも月当り金一万五〇〇〇円の収入減となつていることが明らかである。しかし、原告の従前のハイヤー運転手と、個人タクシー運転手とは、その仕事の質においても、量においても差があることは明らかであるから前後を単純に比較するのは相当でない。後遺症による収入減があるかどうかを問題とするとすれば、後遺症がないとしたら、原告が個人タクシー運転手として得られたであろう収入と現実の収入とを比較すべきである。本件では、個人タクシーの運転手の平均収入がどの程度かこれを認めることのできる証拠はないから、同種のハイヤー運転手の収入を一応算出の資料とする(一般のタクシー、ハイヤー運転手にくらべ、個人タクシー運転手の方が収入が多いことは公知の事実である。)。しかし、交通事故の被害者が後遺症のため顕著な労働能力の低下を来たしている場合に、その労働能力の低下による財産的損害評価にあつては、現実の収入差額に拘泥するのは相当でない。けだし、労働能力の低下がありながら、従前と同じ収入を得ている場合でも、労働能力の低下が減収と結びつかない職種の場合もあろうし(しかし、その場合でも転職の蓋然性が高い場合には、減収がないとしてしまうわけにはいかない。)雇主が使用人との契約上、あるいは恩恵的に被害者の損害を填補している場合もあろうし(この場合には、雇主の方に債権者代位あるいは事務管理により直接加害者に填補分の請求権を認めるのが相当であるが、被害者自身の請求権もなくなつてはいない。)、また被害者自身が、その後遺障害にもめげず、従前以上の労働力を投下し或いは質的に、或いは量的に―従前の収入と同程度のそれを得る場合もあろう。特に原告のような、出来高払い制の職種や自家営業の被害者にあつては、当該被害者が、従前の同程度の収入を得るには従前以上の努力と労働時間とを要していることが容易に推認される。この場合には、そのような努力とか労働時間とかを金銭的に評価するのが相当である。そうでないと、怠け者には逸失利益を認めるが、勤勉、実直者には認めないという不当な結果となる。そのような観点からすると、後遺障害による労働能力の低下がある場合には、その損害が填補されていると認められるような特段の事情がある場合は別として、その労働能力の低下自体を損害として認め、その金銭的評価にあたつては、現実の収入差の他、後遺症の部位・程度、職種、年令、性別、転職の蓋然性、事故前後の稼働状況を総合してなすべきである。本件においては、右に説示した理由および前記認定の後遺症の部位・程度、その職種、稼働状況等から前記のとおり評価するのが相当である。
(田中康久)